TOP はじめに お知らせ 公演履歴 稽古日程 ブログ リンク

SUNA様 『きおくのその −2014年度版 鈴の森−』 感劇日記

  「憶えてるかい?……」  ラストシ−ンに涙がこぼれた。
 ダム建設により、埋もれてしまった町。そして、そんなことさえも人々は、記憶の彼方に埋もれさせてしまっている。グロ−バルだ、景気がどうだ、消費税が…と忙しい毎日のなかで、人々は「忘れずにいること」をいくつ持っているのだろうか。

 オ−プニングとエピロ−グに登場し、過ぎてゆく男。彼の眼には現在の我々のいる世界の在りようは、どう映っていたのだろうか。そして、彼が昇っていった階段の先には、一体何が……?

 ちょこっと演劇体験と銘打って、9月から毎週末の5日間の稽古で作られた舞台だったが、多くの感情と現在、我々が考えるべきことを、ちょこっとではなく、じんわりと気づかせてくれる公演となった。ロビ−という普段、人々が通過する空間で、人が立ち止まり、怒り、泣き、笑い、喜び合う。人が人を想うこととは、こんなにも切なく、苦しく、素晴らしいものなのか……。芝居が終わってふと自分にかえってみたら、もう一人の自分が、現在の自分を見おろしていた。

 20世紀を代表するチェ−ホフの「三人姉妹」やベケットの「ゴド−を待ちながら」を彷彿とさせる台詞…。演劇を始めて日の浅いキャストやスタッフを短期間にまとめ上げた作・演出の宮ア氏の手腕には恐れ入る。聞けば今回は3度目の再演であるという。再演というと、再現させる芝居が多いのだが、宮ア氏は、以前の自作を見事に換骨奪胎し、現在の社会を投影した作品に昇華させていた。都内で上演される芝居の多くが、似たりよったりの一般的なものが多いなかで、この芝居は、ここ成田でしか作れない作品となっていた。心からの拍手を送りたいと思う。
 また、今回の試み(ロビ−公演)は、人々が出会い、語り合う場は、どこにでもあるのだということを我々観客に気づかせてくれる公演となった。その気になりさえすれば、いつでもそんな場は、目の前にある。この企画を進めた成田国際文化会館の皆さんに、感謝である。

 この芝居は、ダブルキャストになっており、同じ脚本なのにA班・B班で、感じる印象が異なっていた。。16時の回は、段々と夕闇が迫るなか、湿気のある芝居になっており、18時の回は、登場人物がとても明るいキャラクタ−となっていた。
 カ−テンコ−ルの後で役者が扉を開け、外(町)へ出てゆく。冬の気配を含んだ冷気がさあ〜っと吹き込んでくる。この後、客は、会場(ロビ−)を出てゆく。芝居の登場人物と同じ道程(みち)を通って……。去っていった役者たち、お客たち。これらの人々がまた集まる時、今度はどんな 出会いの物語が見られるのだろうか。

(2014.10.12記 SUNA)

戻る

Copyright(c) 2011 成田市民劇団 〜Narita Theatrical Company〜 Allrights reserved.



inserted by FC2 system